自分の力で営む覚悟が農業には必要
栽培品目/春菊・小松菜等
やさい部会 部会長 藤川 守 さん
藤川さんのことについて伺います(作物、経験年数、労働力人数等)
基本的にハウスで小松菜を一年中、冬には春菊を栽培しています。また、水稲も栽培しており、今年の作付け面積は1.5haほどです。
現在就農17年目で、法人化はせずに個人経営で行っています。将来的には法人化などを踏まえて規模を拡大していく可能性もありますが、現時点では夫婦二人でがんばっている状況ですね。
1日の農業スケジュールを教えてください
朝は5時に起きて、収穫や袋詰め作業などを行います。そこから出荷のための箱詰め作業まですると、大体昼頃までかかりますね。量が多い時には昼過ぎになることもありますね。
午後からは昼休みをはさんで、冬場では午後2時頃にはハウスに入り、ハウス内の圃場管理や草取り、種まき、次の作付けの準備などを行います。夏場になると昼間は暑くてハウスに入れないため、昼からはほぼ自由な時間です。夕方の5時前から日が暮れるまで作業を行います。
農業を始めようと思ったきっかけはなんですか?
元々親が小松菜や春菊を栽培していたのですが、親の高齢化や不景気の中での将来への不安があったことが考えるきっかけとなりました。
当時は子どもも小さかったけれど、会社に勤めていても将来の見通しが立たない状況に不安を抱いてまして、ちょうどその頃、親と話し合い、親も自身の体力的な限界が近づいていたため、「やってみたらどうか?」という提案を受けました。私自身も既に20年以上勤めていたこともあり、思い切って農業に挑戦してみようと決心して実家に戻りました。
当時は農業経験もほとんどなく、田植えや稲刈りの際に手伝う程度で、施設での小松菜などにはまったく触れたことがありませんでした。
退職後の約1年間は親と一緒に作業を行い、工程や作物の育て方などを学びました。1年後には経営を移譲され、親から独立しましたが、その後も4~5年は親からの指導を受けながら作業を行いました。
経営品目の特徴とこの品目を選ばれた理由を教えてください
小松菜は植えてから収穫までの回転率が速いのが特徴です。
梅雨時や台風などの災害で田んぼが水浸しになり、作物が枯れることもありますが、再び種を蒔けば1か月後には収穫できます。台風の際にはハウスのビニールを外すので中の作物が少し傷むこともあり収量が減る場合もありますが、すぐに種を蒔けば取り返せます。
トマトや苺などの作物は一度失敗するとそのシーズン全体が台無しになる可能性があるため、経営的には小松菜が良いと考えて選んでいます。
また、小松菜は手間も少なく、収穫時間も短く済みます。こういう性質が私には合っていると感じましたね。
農業を始める際に、どのような準備をしましたか?
当初10アールのハウスから始めたのですが、今後のことを考えてハウスを増やすことに注力しました。現在は18アールほどまで増えています。増設には中古のハウスを利用し、不要になったハウスを解体して自ら組み立てました。
ハウスを建てる知識は特にありませんでしたが、最初に親と一緒に1棟手ほどきを受けながら見よう見まねで建設しました。その経験が今も活きていますね。
農業経営を開始して苦労したことは?
農業経営を始めた当初は、個人で小松菜を市場に出荷していました。最初の頃は地域の農家と協力してブランド化し、市場の社長さんもサポートしてくれたのですが、高齢化により辞めていく人が出てきて、収量も減少していきました。
収量を出さないと市場に置いてもらえないので、収量を確保し、販路を安定させるためにどうするか、さまざまな話し合いの末、仲間とともに農業協同組合(JA)の部会を作り、新規就農者を引き入れて現在は7人のメンバーで活動しています。このグループ形成が一番の苦労でしたね。
農業の魅力は何だと感じますか?
農業を始めた当初に感じたのは、自分が種を蒔いて育てた作物が売れた時の達成感ですね。自分が作った作物が店に並び、それを購入してもらえることは喜ばしいことです。
あとは自分自身が経営者として自由に行動できることや、以前のサラリーマン時代に感じた上下関係のストレスから解放されたことも大きな魅力でした。
経営者として自分の考えに基づいて行動できる自由さや、自分の責任のもとで経営している作物が売れた時の喜びは大きなものです。
また、近所の人に作物を配ったりすると、その喜びの声を聞くことも嬉しいです。現在の部会でも、学校給食に供給することが多くなり、安心安全を意識してJGAP認証(第三者機関の審査により確認された農場に与えられる認証。いわば「良い農場の目印」)を受け、ますます喜んでもらえるよう努めています。
農業を行う上で、最も大切だと思うことは何ですか?
農業を行う上で最も大切な要素は、根性と忍耐力、そして根気です。収入を増やすために、量を増やせばいいと思うかもしれませんが、それには寝る時間を惜しんで努力する必要がありますし、継続的に行わなければ意味がありません。
経営はすべて自分で決めて行うので、一定の厳しさを自分に課す必要があります。ただ自ら経営を行っていくと、そのような姿勢が自然と身についていくので、継続が大事ですね。
現在農業経営で力を入れていることや今後の展望を教えてください。
現在、集落営農法人の計画を進めていまして、飼料米やWCS(ホール・クロップ・サイレージ)などの活用を検討しています。この地域では畜産農家が多く、連携を図りながら循環型農業を実践したいと考えています。
畜産農家に飼料米などを供給する代わりに、堆肥を受け取り再利用して作物を育てるといった循環の流れを築きたいと考えています。
農業法人に就業される方や新規就農者にアドバイスがあれば、教えてください。
とにかく新規で始めるのであれば、強い覚悟を持って臨むことですね。
農業は夢がある一方で、困難も伴います。甘い考えではなく、覚悟を持って取り組むことが重要です。
また、補助金があっても、自己資金もしっかり準備しておくこと。あとは周りの農家の方との人間関係をどう作るかもとても大事です。上手く協力し合える関係を築くことが大切だと思います。